NPO法人 地球のステージ
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更新: 2005年8月26日
 
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破壊された建物

男の一人暮らし  2003,6.5

 夕方、フアードが家に連れて行ってくれる。彼の家は「J地区」というところにあって、ここはエジプトとの国境線のすぐそば、「保安のために」よくイスラエル軍に攻撃されてしまう。先週もこの地区で家が5軒壊されている。その時にフアードの家の真ん前にあった家も2軒、軍用ブルドーザーによってぺっちゃんこにされてしまったらしい。

 フアードの家はなんと、5階建て。増築してまだ3年も経たないという。でも家に入ると、厚い砂の層が全てを覆っている。窓には窓ガラスがなくて、どの扉も開けっ放し。「窓ガラスはイスラエル軍の銃撃等の圧力で破裂してしまうから、ないままにしているんだ。扉も閉めていて二度と開かなくなると困るしね」

 フアードには確か、父、母、そして兄弟姉妹が6人くらいいるはずなのに、ここは人が生活している感じが全くない。「家族は?」と聞くと、フアードは「ここは危な過ぎるから、みんな別のところにいるんだ。2年半くらい、ここに住んでいるのは俺一人だ」という。

 彼は4畳くらいの部屋に案内してくれる。180cmもあるフアードを見上げ、その小さな部屋を見渡すと・・・まるでガリバーと小人国の世界。フアードは大きな声で笑う。「この方が意外と快適なんだ」という。「ほれ」大きな身体でベッドの上に横たわる。「これが俺の万能リモコン」と言いながら、ベッドの脇から長い棒を引っ張り出してくる。寝っころがったまま、「テレビはこうやって」と、棒の先で器用にテレビのボタンをカチャカチャ操作してみせる。「電気は」と、棒の先で壁のスイッチを上げ下げする。「部屋の換気もこれで」と、棒の先で窓を開ける。フアードは満足気に「電池不要」という。

<イスラエル軍からのご挨拶>

 フアードと破壊された家屋を見に4階に登ってみる。窓枠から外を眺めると、500mほど先に旗がパタパタと靡いている。エジプトの旗。なるほど、国境線はこんなに近いところにある。そして、巨大な軍用ブルドーザーが手前の土地を掘り起こしているのが見える。フアードは国境線付近に立っているイスラエル軍の「ウォーッチ・タワー」を指差す。「あそこには特殊カメラが設置してあって、この家の中もちゃんと見えるんだ。そしてあそこ撃ってくる。4キロ離れたところまで平気で届くんだ」

リモコン替わりの棒

 フアードは先週潰された家屋があった場所を指差す。といっても、家が跡形も残っていないから、どこを指しているのかよく分からない。目を細めて必死に探しながら「どこ?どこ」と聞くと、フアードが「あの辺」と、また指す。すると、銃撃の音がする。それも、近くに飛んで来る音。私達の方向に飛んで来ている。

 二人慌てて伏せ、階段を目指して床を這って行く。頭の中で「嫌だ、嫌だ」という言葉がひたすらかけ巡る。飛んでくる弾が全て自分を狙っているような気がする。安全なところはどこにもない。しゃがんでも弾が壁に反射して自分に当るかもしれないし、何かの後ろに隠れても、弾が通過して自分に当るかもしれない。撃ってきているのが誰なのか、どういう理由があって撃ってきているのか、そんなことなんてどうでもいい。単純に死ぬのが恐い、という、動物的な恐怖に駆られる。腹の底から全身に渡って感じる、絶対的な恐怖。

 慌てて1階におり、フアードの部屋に戻る。ばくばくしている心臓の音で耳が破裂しそう。顔も多分、真っ青になっている。指の先がピリピリしているのに意識が集中する。

でもフアードは至って冷静。「紅茶がいい?それとも、コーヒー?」フアードが台所でお湯を沸かしに行っている間、私は彼の狭い部屋でまだ続いている銃撃の音に耳を澄ます。パーン,パーン。パパパパパーン、と連続すると、すぐ後に台所から明るい声で「ノープロブレム」と聞えてくる。

<一人暮らしの訳>

「インティファーダが始まる2ヶ月位前にこの家の建設を始めたんだ。その前、ここはトタン板屋根の1階建てだった。父さんが長年働いて貯金していて、退職した時にやっとこの家の建てるお金が揃ったんだ。インティファーダが始まった時も建設を続けた。インティファーダなんて1、2ヶ月、精々3ヶ月くらいで治まると思った。でも何ヶ月経っても終わらなかった」

「毎朝、鳩に餌を上げに屋上の小屋に行くと、戦車、ブルドーザー、破壊された家々の瓦礫や掘り起こされた土地が見える。家族や友人はみんな、ここで寝泊りするのはバカげてきる、というけど、俺がここにいないとどうなる。今までも何度も、イスラエル軍がこの地域の家々を銃撃し、その家の人たちが恐がって出て行った隙に家ごと破壊して<あの家は無人だった>と言ってきただろ?俺がこうやって、毎日ここに戻って来て、部屋の灯りつけていれば、イスラエル軍もそれを見て安易にはこの家を壊せないかもしれない。俺はそう信じるしかないんだ。うちの家族にとってはこの家がすべての財産だからさ」

銃撃の音が少し治まった時に、フアードが高い塀で囲まれている庭に連れてってくれて、家の外側を見せてくれる。さっきまで私達が外を眺めていた部屋の外壁に、くっきりと弾の跡が残っている。

 フアードは毎晩、毎晩、この家に戻って来て、一人で眠っている。

また銃撃の音が始まる。今度は弾は別のところに向けられている様子。家の中にまた入ると、フアードが飼っている小鳥の歌声が空っぽの建物の中で鳴り響く。まるで銃撃の音を消し去ろうとするかのように。

パレスティナ事業関連
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