NPO法人 地球のステージ
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更新: 2005年8月26日
 
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ガザへ
「イード」  

2003年11月25日

「アラー・オ・アクバル・・・」朝4時頃に最初のアザーン(お祈りの呼びかけ)が近くのモスクから流れてくる。5時頃には早起きしてもう外に出ている子どもたちの掛け声が聞えてくる。

今日はみんなが待ちに待っていたラマダン(断食の月)明け、「イード」の初日。「イード」はアラビア語で「お祭り」という意味で、今日から3日間、学校は休みになり、一部の人たちを除いてガザ中の大人もお休みだ。

さて、「イード」といえば、まずはおめかし。子どもたちはこの時のために買ってもらった新しい服を着て、すてきな格好で親戚を訪問しに行く。いつもならジーンズと長袖Tシャツを着ている私も、今日ばかりは少しは努力しないと現地の人に白目を向けられる。たんすの奥にしまってあった唯一の長丈のスカートを引っ張り出して、一番まともなセーターと一緒に着る。

ダルウィーシュ家にお呼ばれされている。家の中に入ると、誰一人ともまだパジャマから着替えていない。「え?今日は新しい服を披露するんじゃないの?!?」と聞くと、みんなが笑って、「まだだよ。ファシークを食べ終わってからじゃなきゃ」と言う。

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ラマダン明けに食べるお菓子「キァーク」。多くのパレスチナ家庭がせかせかとこのお菓子を大量に作り、イード中に訪問するお客さんに差し出す。(ちなみに、今まで食べて来た中でこの家のキァークが一番美味しかった)



<ラマダン明けの朝食>

「ファスィーク」

現地では、ラマダン明けの初日は必ず「ファシーク」を食べる。ファシークとは、大量の塩に漬けられたし白身魚のこと。油でカラッと揚げて、パンと一緒に食べる。朝っぱらからこんな塩っ辛いものを・・・と思うところだけど、これにはちゃんとした訳がある。

ラマダンの1ヶ月間、日中はずっと断食しているから、ラマダン明けはまず最初にファシークを食べて、その塩っ辛さで弱っている胃を整えるらしい。それに、これを食べると本当に塩っ辛くて喉がものすごく渇くから、嫌でも水分補給をしなければならない。ふむふむ、納得できる説明・・・がしかし、とにかく塩っ辛い!そして脂っこい。なるほど、家族はこれを食べ終わるまでは新しい服に着替えたくないわけだ。油が飛んで汚してしまったらせっかくのお洋服が台無しだもんね。

大量の塩に漬かった白身魚を油で揚げてある食べ物で、ラファではラマダン明けの朝に必ず出てくる。ラマダンの1ヶ月間、日中はずっと断食を続けていたお腹には、塩辛いファスィークを食べてお腹の調子を整えるのが一番とされている。


<イードの過ごし方>

朝食を食べ終わったら家族一斉に着替え始める。一人一人、着替え終わったら私の前でくるりと一回転。「どう?似合う?」ダルウィーシュまでもがそう聞いてくる。

イードは子どもたちにとって(学校が休みになること以外に)2つの楽しみがある。1つは親に新しい洋服を買ってもらえること。だからイードの間は多くの子どもたちの新服を着て歩き回っている姿が目に付く。お金の余裕がある家族は子ども一人3、4着も買っちゃったりする。ほとんどの服はトルコ製や中国製でそこそこ安く買えるものだけど、それでも生活が貧しい家庭にとってこれはかなりの奮発。それでも、子どもたちが皆楽しみにしているから、ほとんどの家庭は可能なかぎり、頑張って子どもたちに新しい洋を買ってあげようとする。

子どもたちのもう1つの楽しみといえば、お年玉。お父さんからはもちろん、親戚やお父さんお母さんの仲いいお友だちからお小遣いを貰うのが子どもたちにとってなによりも楽しみ。その貰ったお金で新しいおもちゃや自分が食べたいものを買ったりして、イードの間を楽しむのだ。だから他の人たちがみんなお休みでも、おもちゃ屋さんは今が稼ぎ時、のんきに休んでなんていられない。女の子は髪飾りや好きなアクセサリーを買ったりして、男の子はBBガンを買うことが多い。

 ドレスアップ


ードのお祝いに新調した洋服を誇らしくモデルする女 の子たち。多くのお金の余裕がない家族もこの時期だけは無理してでも子どもたちに洋服を買ってあげようとする。
 (でも、それでも買ってもらえなかった子どももいる)


同じくイードを稼ぎ時としている人たちはお菓子屋さん、食べ物屋さん、そして乗合タクシーのお兄さん・おじさん。イードはご挨拶の時期だから、ラファ中だけでなく、ガザ地区中に住んでいる親戚のところに顔を出しにいく家族が多い。運ちゃんもイードこそ頑張ってせかせ稼ぐ。

イードは、街中を歩いている時や訪問する先々で会う人会う人と握手を交わし、「クル・アーム・ワ・イントゥ・ビヘール」(毎年無事であることを)と言い合う。例え車の中からでも、知っている人をみかければ車の窓からでもその人に向って、大声でこの挨拶・願いを叫んでいるラファの人たちを見ると、なんだか幸せいっぱいな気持にさせられる。


< ガザ地区唯一の動物園 >

午前中はダルウィーシュと子どもたちと親戚を訪問し回ってから、午後はみんなで動物園に行く。

ガザ地区の唯一の動物園がなんと、ラファにある。それも、私が住んでいる同じブラジル地区に!これは個人経営の小さな動物園で、インティファーダが始まる1年に出来たものだと聞く。あることは前も聞いてきたけど、中に入るのは今回が始めて。実は動物園もイードが稼ぎ時。ラファではイード中に動物園に来る子どもたちがものすごく多い!入場料は子ども1人1シェケル(約25円)、大人1人3シェケル(約75円)。

小さい動物園だけど、期待していた以上にいろんな種類の動物がいる。色取り取りの小鳥、フクロウ、クジャク・・・ヤギ、狐、狼、ウサギ、蛇・・・カンガルーと巨大なダチョウまでいる!(でもそれぞれのオリは小さく、1匹づつしかいなくて可愛そう)

そして、今日だけの特別アトラクションとして、一匹の「アジナビーエ(外人)」がいる。


動物園に入った途端、子どもたちの群が私に気づいて、いきなり私を囲み始める。動物を見るのも良いけど、私を観察するのも楽しいらしい。それに、オリに入っている動物と違って、私はペットできるし、「ワッチューネーム?ワッチューネーム?」と何度も聞いて私の反応を楽しむことが出来る。
こんな狭い場所だと、彼らから逃げようがない。

そうやって、子どもの群に囲まれたまま、それぞれのオリを見回ろうとするが、子どもたちにぎゅうぎゅう押されて落ち着いて何もみえない。ダルウィーシュの子どもたちが一生懸命私を群から引き離そうとするけど、彼らも動物を見るのに夢中でずっと私のことをかまっていられない。何人かの子どもは汚い手でポテトチップスを差し出してくれる。餌付けだー!せめてバナナにしてくれい、と内心叫ぶ。こんなんなら、オリに入った方がましだ。オリがあれば、こんなにべたべた触られないで済む。それに、あそこのオリの狐みたいに、寝たふりしていられるし。えーん。

もー!せっかく来てるのにぃぃ!ほっといてー!と叱ろうと、子どもたちを見回すと、頭のてっぺんから足まで全部新しい服に包まれていそうな子どももいれば、どうみても古そうな服を着ている子もいる。一人の男の子は、着ているセーターには毛玉が目立って、ズボンも履き古した感じ。靴もかなり疲れている様子。彼は多分、今回のイードに新しい服を買ってもらえなかったんだろう。

動物園 
ガザ地区唯一の小さな動物園がラファにある。イードに多くの子どもたちがここに押し寄せる。動物の種類はさほど豊富ではないけど、フクロウ(4羽)やカンガルー(1匹だけ)といった珍しい動物も飼ってある。



今回のイードは皆にとって楽しい思いばかりではないことを思い出す。ガザ地区はまだイスラエルに占領されている。多くのお父さんたちはまだ失業中で生計をまともに立てられていない。どんどん寒くなっている中、イスラエル軍による家屋破壊は続き、家族が次々と住むところを失っている。そして、国境線沿いから聞えてくるイスラエル軍の銃声はまだ鳴り続いている。

今回のインティファーダで家族・友人の1、2、3人を失った人たち、失業して4年目を迎えている人たち、長年貯金してやっと建てられた家を壊された人たちの中にはもっと裕福だった、もっと楽しかったイードを思い出して、今回のイードで惨めな思いをしている人もいるでしょう。今、自分が置かれている状況を恨んでいる人もいるでしょう。

でも、もっと多くの人たちが、辛い状況に置かれながらも、今、家族や友だちと過ごせる時間、このイード中に味わえる目の前のささやかな喜びを大事にしているように思う。何よりも彼らが精いっぱい今を生きようとしていることを意味していると思う。そして、彼らがこう思えるのも、日々の彼らと家族・友だちとの支え合いがあるからのような気がする。

そう思ってくると、私の周りを囲んでいるうるさい子どもたちが、せっかくのイードをみんなで楽しく過ごそうと、この狭い動物園に集まって来ている子どもたち、として見えて、さっきまで彼らを「ウザイ」と思っていた気持が一瞬だけ消え、彼らに微笑んでしまう。

パレスティナ事業関連
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